科学としての心理学は「心の制御」ではなく「心の制約の制御」のために
HCD-NET 認知工学の基礎を聴講してきました。
(グランフロント大阪のナレッジサロンで行われた人間中心設計推進機構のイベントです。)
覚えているうちに聞いたことをまとめ。
認知工学の基礎:「どんな」分析を「なぜ」するのか?
原田悦子氏 (筑波大学人間系心理学域)
HCD-Net | 第60回HCD-Netサロン@関西「認知工学の基礎:「どんな」分析を「なぜ」するのか?」開催のお知らせ
ざっくりした講義の内容は・・・
人間が○○したいと思って行動(問題解決のための行動)するとき、モノを操作して今の状態と目標の状態とのギャップを少しずつ埋めていく。
ユーザーが問題解決するときの思考プロセスはブラックボックスなので、本人以外はわからない。(本人ですらわかっていないこともある)
認知工学では認知心理学や認知科学で得られた知見をもとに、使いやすいモノの設計を考える。
ユーザビリティテストなどを通して人間が問題解決をする際の思考プロセスを
追っていくことで、モノや課題がユーザーにどう見えているのか明らかにする。
認知工学で扱う「モノ」とは?
モノは人間が作り出したモノ(人工物、artifacts)全般。形があるモノとは限らない。
人が作ったものだから、作り直すことが出来る。
- 道具
- 道具の置かれた空間、環境、配置
- 社会システム(クレジットカード、自動改札)
- 制度・ルール (勤務態勢や介護保険法)
人間がものごとを理解したり、感じたり、考えたり、決めたり、思い出したりするときに、頭の中で何が起きているのか、どのような制約下でどのように情報処理されて、そういった活動が生じているのかを研究する領域。
科学としての心理学が目指すのは、「心の制御」ではなく「心の制約の制御」という考え方。
人間の認知には制約が伴う。
- 感覚器の制約
知覚可能域(目の制約としての可視光域、耳の制約としての可聴域など) - 言語による制約
日本人は虹を七色と認識しているが、他の国では七色とは限らない。 - 社会文化的制約
レディファーストの欧米では女性が先にエレベータを降りる。
科学の目的は「現象」を記述し、説明し、予測し、制御すること。では科学としての心理学は人間の心の制御が目的か?
→そうではなく、目的は心の制約の制御。
認知過程の多層的要因
人の認知過程には多層的な要因が関係しており、ひとつにカテゴリ分けすることはできない。ズームアウトして全体から判断しないと、誤った判断をしてしまう。
「使いやすさ」とは何か?
「使いやすさ」とは人間からみて、そのモノがどう見えるか(認知されるか)という特性であって、モノの属性や特性ではない。
人にとって真に使いやすいデザインを考えるためには、使う人にとってそのモノがどう見えているかという認知心理学、認知科学的な観点からの分析が必要。
「使いやすさ」はモノの形だけで決まるものではない。
人と人工物の相互作用の中で発生する現象ではあるが、その人が置かれた文脈(持っている課題や置かれた状況)によって「何が使いやすいか」は異なるので、人、人工物、課題、状況をデザイン(設計)の考慮対象にする必要がある。
ISO 9241-11のusabilityの定義
「特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い」
User Experienceを捕まえるには
人と人工物との間に起こる相互作用を時間的、空間的、社会的(文化的)にズームアウトして
- ユーザーの意図
- ユーザーが認識している問題とそれに対するユーザーの問題解決アプローチ
- ユーザーが置かれている文脈
との相互作用を理解していく必要がある。(パーソナルビューからの問題解決過程を知る)
→認知的ユーザービリティテストをおこなう。
認知的ユーザービリティテスト
- 発話思考法
- プロトコル分析
被験者に対象機器を操作してもらい、そのときの様子を音声と映像に記録する。発話思考法は、イルカが海から時折頭を出す様子を観察するでイルカの移動していく位置を大まかに推測できるイメージ。
得られたデータを書き起こす際に重要なことは被験者が発した内容と、その瞬間の被験者行動(機器の操作や目線の動き)も書き起こすこと。
参加した感想
わたし、認知工学の部外者なのですが、わかりやすく話してもらったので最後までついていけました。90分では駆け足になってしまったところもあるので、今度は2時間枠で話を聞きたいですねえ。
関連情報
UX神戸#03 ユーザービリティ評価(観察法) | 経験デザイン研究所
- UX KOBEで発話思考法したときの浅野先生のブログ
コンピュータと人間の接点(’13)|KAMOKUNAVI - 放送大学
- 黒須先生の放送大学の講義。「佐伯の2重インターフェース理論」が講義ででてきたことを思い出した。
認知心理学―心のメカニズムを解き明かす (いちばんはじめに読む心理学の本)
- 9章を原田悦子氏が担当している。